われわれの身の周りの物質は、原子や分子が高密度で凝縮した存在です。
初等量子力学や平衡統計力学をベースにしたバンド理論は、原子が詰まった空間での電子の挙動を解明し、
金属や絶縁体の由来を示すことに成功しました。
また、20世紀の技術革新の中心的位置を占める半導体テクノロジーも、ここから誕生しました。
しかし一方では、バンド理論で説明できない物質群もまだまだこの世の中に存在しています。
それらの物質群の理解に向けたキーワードは、強相関や低次元性です。
非常に大きな電子間クーロン相互作用と、空間的に偏った結晶構造のために、物質の中の電子の運動が
制約されて特殊な挙動を示すのです。
結果として、その物質に固有の物性や機能性が生まれることがあります。
このことを自己組織化や創発などと呼ぶこともあります。
このうち創発という言葉は、構成要素から新しい性質が現れるという意味で広く用いられる表現です。
たとえば、われわれの世界は「ニュートン力学」で記述できますが、
原子や分子の世界を理解するには「量子力学」が必要です。
前者が因果律に基づいた決定論的な表現であるのに対し、後者は確率論的なゆらぎを伴います。
両者は大きく異なっており、このことから自然界を表現する物理が階層構造をもつことが分かります。
われわれの身の周りの物理量や物理法則が、階層を超えて量子世界の法則から派生していると考えるとき、
量子力学から巨視的な性質が創発すると表現されます。
でも、どのように創発するのかを説明することはまだまだ未解決の大問題です。
当研究室では、階層構造的に物理が創発する仕組みを理解する手掛かりとして、
相転移によって生じる超伝導や電荷密度波といった巨視的量子現象に注目し、
遷移金属酸化物や層状カルコゲン化合物を中心に、自己組織的な秩序形成の仕組みを研究しています。
学部生の皆さんはこちらもどうぞ。 → 「いま, 凝縮系物理学のここがおもしろい」 (2005年物理科学科ニュース原稿) → 「豚インフルエンザ, ドラえもん, そして物性物理学」 (2009年物理科学科ニュース)
現在の主要研究テーマ (詳細は準備中です… (^-^)ゞ )
[A] 時間分解光電子分光でみる電荷密度波の非平衡状態と秩序形成
[B] 角度分解光電子分光による電荷密度波ゆらぎの研究
[C] 非周期構造をもつ物質における異常電子物性の研究
[D] 電荷秩序、ダイポールグラスが示す誘電特性と集団励起の研究
研究対象とする物質の合成、単結晶育成、測定装置の設計・作製等も当研究室で行っています。角度/時間分解光電子分光の実験では、佐賀大学シンクロトロン光応用研究センターを利用させて頂いています。m(_ _ )m
これまでの代表的な研究テーマ
[A] 層状カルコゲン化合物の層間電子構造について (JPSJ2022)
[B] 時間分解光電子分光でみたモリブデンブルーブロンズの光励起電荷密度波の緩和過程 (PLA2021)
[C] ビスマス系層状ミスフィット型コバルト酸化物の電子構造について (PRB2008, PRB2015, PRB2016, PRB2017, JESRP2019)
[D] モリブデンブルーブロンズの電荷密度波が示す誘電特性 (JPSJ2011, JPSJ2013, JPSJ2014, JPCS2025)
[E] ビスマス系銅酸化物高温超伝導体の希薄ドープ域における誘電特性 (JPSJ2007, JPSJ2010)
[F] イットリウム系銅酸化物高温超伝導体のCuO鎖層における電荷密度波 (PRB2005)
研究助成
当研究室の研究活動に対して、以下の助成金を頂いています(真木代表分)。
御支援を感謝致します。有効に使わせて頂きます。
・平成18年度 実吉奨学会研究助成
・平成19−20年度 科学研究費補助金(若手B)
・平成20年度 池谷科学技術振興財団研究助成
・平成22年度 前川報恩会学術研究助成
・平成23年度 高橋産業経済研究財団研究助成
・平成26年度 高橋産業経済研究財団研究助成
・平成30年度 池谷科学技術振興財団研究助成
・令和3年度 高橋産業経済研究財団研究助成
・令和4年度 池谷科学技術振興財団研究助成